◆コピペ改ざん!
洒落にならない怖い話『壁』
昔々あるところに、長年連れそった仲のいい老夫婦が居た。
二人は「片方が先に死んだら、さみしくないように壁に埋めよう」と約束を交わしていた。
そうして、しばらくして婆さんの方が先に死んだ。
爺さんは悲しみに暮れながら、約束通り婆さんの死骸を壁に埋めたのだった。
すると、事あるごとに壁の中から「爺さん、爺さんや……」と婆さんの呼ぶ声がした。
爺さんはその声に「はいはい、爺さんはここに居るよ」と答えていたが、ある日どうしても用事があって出かけなくてはならなくなり、村の若い男に留守番を頼んだそうな。
留守番を頼まれた男が居間で座って居ると、壁の中から婆さんの呼び声が微かにした。
「爺さん、爺さんや……」
「はいはい、爺さんはここに居るよ」
最初の内はそう答えていたが、けれどしかし婆さんの声は何度も何度も聞こえてくる。
「爺さん、爺さんや……」
やがて、男は耐えきれなくなってこう叫んだ。
「うっせえ! 爺さんは居ねえーよ!」
すると、壁の中から鬼の形相をした老婆が現れ、「爺さんはどこだあ!」と叫んだ。
突然、眩いばかりのスポットライトが飛び出し、婆さんを映し出す。
「JĪ -SA-Nは、どこだッ!」
ステージに婆さんの大声が響いた。
詰め掛けたオーディエンスは婆さんの久々のステージに期待で爆発しそうだ。
ついに伝説のリリックが聴けるのだ。
ストリート生まれのHIPHOP育ち。
悪い奴は大体友達。
今宵こそは婆さんの打ち鳴らす本物のラップが聴けるのだ。
キャップを斜めに被りオーバーサイズのTシャツを着た爺さんがターンテーブルを弄りながら目で婆さんに合図する。
重たいサウンドがスピーカーからズンズンと鳴り響く。
さあ、ショウタイムの始まりだッ!
「ここで登場《TŌJO》! わしが怨霊《ONRYŌ》! 鬼の形相《GYŌSŌ》! 婆さん参上《SANJYŌ》! 違法な埋葬《MAISŌ》! 爺さん逃走《TŌSŌ》! 壁から幻聴《GENCHŌ》!」
(ドゥ~ン! ドゥンドゥンドゥ~ン! キュワキャキャキャッキャキュワキャ!)
「年金減少、医療費上昇! ボケて大変、食事の時間! 冷たい世間を生き抜き、パークゴルフで息抜き! 読書習慣、意外と長続き! どこだJĪ-SA-N、老人問題《MONDAI》! そんな毎日リアルな存在《SONZAI》! SAY HO!(HO!) SAY HO HO HO HO!」
爺さんのプレイも絶好調になり、オーディエンスの熱狂は怖いくらいだ。
「まだ、俺らの令和時代は始まったばかりだYO!」
そんな痛烈なメッセージが、婆さんの口からマイクを通して飛び出していく。
今まさに本物のヒップホップが、ここにあるのだ。
──完。
